漱石が敬愛した長兄の大介の死から二年後の明治22年 2月5日、漱石は第一高等中学校の英語会で兄の死を偲ぶスピーチを行ないました。そのスピーチの一部を『漱石全集』第26巻 (1993年版)山内久明氏訳でご紹介します。
『兄の墓参りをしたのは、先月1月のことである。冬は寒々と枯れ果て、自然の魅力はことごとく失われていた。…(中略)… 墓石に跪き、お念仏を唱え、変わらざる仏の大恩と、人の身の儚(はかな)さをしみじみと肝に銘じつつ、子どものように泣き始めた。
…(中略)… 「嗚呼(ああ)、しかし樹の下に眠る兄が、永遠の眠りから蘇ることはない。兄は永遠の眠りのなかで、私について夢を見てくれるかもしれない。ここでこうして空しく、私が兄について夢見るように、愛こそは以心伝心、心は通い合うものなのだ。」そう私は思った。』